地方在住PMのキャリアパス|ICか管理職か、5年後の選択肢
- 地方在住PMのキャリアはICとマネジメントの二択で、僕の相談実感では比率はおよそ6対4でIC志向がやや多い。
- 地方拠点は対面の偶発的接点が少なく、マネジメント職では意識的な信頼構築の設計が昇進の鍵になる。
- 5年後の選択肢を残すには、今の実績を月1回30分の棚卸しで記録し年2回言語化する機会を作ることが有効。
「山根さん、正直この先、地方にいながらマネージャーになれるんですかね。それとも、ずっと一プレイヤーのままなんでしょうか」
先日の面談で、こう聞かれて僕は少し言葉に詰まりました。地方在住のままPMを続ける皆さまから、この種の質問を本当によく受けます。結論から言うと、地方在住であることは、ICとして専門性を尖らせる道にも、マネジメントとして組織を動かす道にも、決定的な壁にはならないと僕は考えています。ただし、どちらの道を選ぶかによって、地方という条件が効いてくるポイントが変わってくる、というのが実務を見てきた僕の体感値です。今日は、この二つの分岐点について、具体的なパターンと失敗談を交えながらお話ししていきたいと思います。
1. 地方在住PMが直面する二つの分岐点、ICかマネジメントか
まず言葉を整理しておきます。IC(Individual Contributor)は、プロダクトの意思決定に直接関わり続ける専門職としてのキャリアです。マネジメントは、チームや複数プロジェクトを見る役割で、個人の成果よりも組織としての成果が評価軸になります。あくまで僕が個別に相談を受けてきた体感の話ですが、地方在住PMの方との面談では、IC志向とマネジメント志向でおおよそ6対4くらいの比率になっている印象があります。都市部の同世代PMだと管理職を目指す割合がもう少し高い体感があるので、地方在住の方は専門性を軸に据える方がやや多い、という傾向だと捉えています。この分岐は入社直後から意識するものではなく、実務経験がおよそ3〜5年ほど積み上がったタイミングで、上長から「次のキャリアどう考えている?」と聞かれて初めて具体的に考え始める方が多いという印象です。優劣の話ではなく、単に選択肢の分布として押さえておいていただきたい数字です。
2. 地方という条件が両方の道に与える見えない制約
ICにもマネジメントにも共通してかかってくる制約があります。それは、対面での偶発的な接点が少ないということです。都市部のオフィスなら、廊下ですれ違ったときの雑談や、飲み会での何気ない一言が評価や信頼の土台になっていることが少なくありません。地方拠点でフルリモートに近い働き方をしていると、この偶発的な接点がほぼゼロになります。加えてマネジメント職に特有の制約として、地方拠点そのものに管理職ポストが設計されていないケースがあります。ある企業では組織図上、マネージャーは本社に常駐する前提で作られており、地方在住のPMが「その役割を担いたい」と申し出た際に、人事側が前例のなさに戸惑って回答が半年近く保留になったという話を聞いたことがあります。一方でIC側の制約は、成果が見えにくいことです。良い仕事をしていても、自分から発信しなければ、離れた場所にいる評価者には伝わりません。どちらの道を選ぶにせよ、この「見えない」というハンデをどう埋めるかが、地方在住PMの共通課題だと僕は考えています。
3. IC(個人貢献者)として尖る場合の勝ち筋
ICとして生きていく場合、僕が見てきた勝ち筋は、地場産業や特定業界に紐づく専門性を持つことでした。ある地方在住PMの方は、地元の一次産業に関わるDX案件を続けて担当するうちに、その業界の商慣習や現場の言葉に詳しいPMとして、逆に都市部の企業から声がかかるようになりました。専門領域が狭く見えても、その領域に詳しい人が少ないことがそのまま希少性になる、という好例だと思います。単価の上げ方についても、案件を横に広げるより、同じ業界内で実績を積み重ねて紹介につなげる方が、地方在住PMには現実的なケースが多い印象です。注意点は、社内での可視性が下がりやすいことです。成果物の質だけでなく、月次報告や社内勉強会での発信を自分から仕掛けないと、専門性があっても「よく分からない人」のまま埋もれてしまうリスクがあります。実際、専門性は高いのに評価面談で「もっと発信してほしい」とだけ言われて悔しい思いをした、という声を何度も聞いてきました。
4. マネジメント職を目指す場合に積み上げるべき信頼
マネジメントを目指す場合、僕が重視してほしいのは、信頼構築を偶然に任せないという姿勢です。ある地方在住PMの方は、月1回の東京出張のたびに、会議の前後30分を意図的に空けて、経営層やキーパーソンと雑談する時間を作っていました。議題のない雑談というのは一見無駄に思えますが、いざ昇進や役割の話が出たときに「顔が浮かぶ人」になれるかどうかは、この積み重ねで決まると僕は考えています。この方は加えて、1on1の頻度を通常の月1回から隔週に自分から提案して増やし、進捗以外の「今考えていること」を話す時間を確保していました。結果として、拠点のリーダー的な役割を任されるまでにおよそ1年半かかったそうですが、本人いわく「対面が少ない分、意識して回数を稼ぐしかなかった」とのことでした。Slackやチャットでの発信量を意識的に増やすことも有効です。進捗報告に一言、自分の考えや懸念を添えるだけで、対面での雑談に近い役割を果たしてくれます。逆にやってはいけないのは、成果さえ出していれば見てもらえるはずだと受け身で待つことです。
5. よくある失敗と、その対処法
ここで、これまで相談を受けてきた中でよく見かける失敗パターンを三つ紹介します。一つ目は、IC志向の方に多い「黙って成果を出せば伝わる」という思い込みです。ある地方在住PMの方は、担当するプロダクトの改善を着実に積み重ねていたものの、社内での発信を一切していなかったため、評価面談で「何をやっているか分からない」と言われてしまいました。対処法はシンプルで、月に一度、15分程度でいいので自分の成果を1枚のスライドか簡単なメモにまとめ、上長やチームに共有する場を作ることです。二つ目は、マネジメント志向の方に多い「管理職になるには都市部に引っ越すしかない」という思い込みです。実際にはリモートでのマネジメント体制を整えている企業も増えており、まず現職の上司に「地方在住のままマネジメントを担う前例はあるか」を率直に確認するところから始めるべきだったというケースを何度か見てきました。三つ目は、どちらの道を選ぶか決めきれず、発信も信頼構築も中途半端になってしまうパターンです。この場合、僕がおすすめするのは、期限を決めて「半年間はIC側の発信を意識してみる」といった形で片方に寄せてみて、体感として合う合わないを確かめる方法です。決めきれないまま様子見を続けるより、期間を区切って試す方が結果的に早く自分の答えにたどり着けると考えています。
6. 二つの分岐、5年後の景色を体感値で比較する
ここで、これまで相談を受けてきた典型例を組み合わせた仮想のケースで、5年後の景色を比較してみます。特定の個人を指すものではなく、複数のパターンをならした構成である点はご理解ください。ICを選び続けたケースでは、特定業界のDX案件を軸に専門性を尖らせ、業界内での紹介案件が増えて単価が上がっていくという流れが多く見られます。一方でマネジメントを選んだケースでは、拠点のリーダー的な役割を任されるようになり、給与テーブル上の昇給はあるものの、地方拠点特有のポスト不足から役職名と実際の裁量にギャップが生じることもあります。軸ごとに整理すると次のようになります。
| 軸 | ICとして尖る道 | マネジメントを目指す道 |
|---|---|---|
| 評価のされやすさ(体感値) | 成果物の質で評価されやすいが、可視化を自分で仕掛ける必要がある | チームの成果に紐づくため、対面での信頼構築が評価に直結しやすい |
| 必要スキルの軸 | 特定領域の専門スキルと技術理解の深さ | 人間関係構築力と経営層との対話力 |
| 昇進・実績化までの体感期間 | 業界内紹介が回り出すまで1〜2年程度が目安という体感 | 拠点リーダー相当の役割を任されるまで1年半前後という体感 |
| リモート耐性 | 比較的高い(成果物ベースの評価がしやすいため) | やや低め(対面の偶発的接点が信頼構築に効くため意識的な設計が必要) |
どちらが正解ということではなく、自分がどちらの制約と向き合いやすいかで選ぶのが現実的だと僕は考えています。
0.(結論)5年後の選択肢を残すために、今日から棚卸しを始める
ここまで見てきたように、地方在住であることはICにもマネジメントにも決定的な壁ではありませんが、どちらの道でも「見えない部分」を自分から埋める設計が必要になります。そのために僕がおすすめしているのは、月1回30分の記録と、年2回の棚卸しをセットにすることです。具体的には次のようなことをメモにまとめておくといいと思います。
- 直近1ヶ月で自分が意思決定した内容と、その結果どうなったか(月1回15分)
- 専門領域として語れるようになった業界知識や技術テーマ(半年ごとに見直し)
- 経営層やキーパーソンと接点を持てた具体的な機会とその内容
- 今の会社でIC・マネジメントそれぞれの前例がどれくらいあるか、直属の上司に確認済みか
この棚卸しを続けていると、いざ選択の場面が来たときに、勢いや不安ではなく、自分の積み上げてきた材料で判断できるようになります。地方在住だからこそ、この言語化の作業を後回しにしない方がいいと僕は考えています。皆さんいかがでしたでしょうか。ICもマネジメントも、地方にいながら選び取れる道です。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 地方在住のままPMのマネージャーになれますか?
なれます。ただし地方拠点では対面の偶発的な接点が少ない分、意識的に1on1の頻度を上げたり出張のタイミングで経営層と接点を作ったりする設計が必要になる、というのが僕の体感です。実際、出張のたびに雑談の時間を意図的に確保して信頼を積み上げた地方在住PMの方もいます。マネジメント職は制度としては開かれていても、運用は本人の設計次第という面が大きいと考えています。
Q. ICとマネジメント、どちらが地方在住PMに向いていますか?
向き不向きは人間力・職種経験・技術スキルという軸によって変わるため一概には言えません。専門領域を深く掘り下げるのが得意で成果物で語れるタイプはIC、経営層との対話や後輩育成に前向きなタイプはマネジメントが合いやすい、というのが僕の体感的な傾向です。どちらか一方に決め切らず、両方の要素を試しながら見極めていく方が現実的だと思います。
Q. 5年後にどちらの道に進むか、今から何をすればいいですか?
まずは月1回30分程度、自分の実績を記録し、年2回は棚卸しして言語化する時間を作ることをおすすめします。IC志向ならプロジェクト単位の成果と専門性の証拠を、マネジメント志向なら信頼構築のエピソードを記録しておくと、いざ選択の場面で説得力のある材料になります。地方在住だからこそ、この言語化の作業を後回しにしない方がいいと考えています。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。